歴史
この路線は、神戸電鉄有馬線の混雑緩和を目的として生まれた。神戸市北部の「北神」地区では、神戸電鉄系のデベロッパーなどによる大規模な住宅地開発によって、昭和50年代には有馬線がすでに「パンク状態」に陥っていた。民間開発が未だ発展途上だった1983年(昭和58年)時点でも、最混雑時の混雑率は201パーセントに達し、将来はさらに悪化すると予測されていた。そのため、北神地区と都心を結ぶもう一本のバイパス路線が必要とされ、都市交通審議会もその建設を答申したが、六甲山系を当時日本最長のトンネルで貫く巨額の建設費は、他の事業も抱えていた当時の準大手私鉄・神戸電鉄が単独で負えるものではなかった。
このため神戸電鉄は、事業提携を行っていた阪急電鉄に援助を仰ぎ、神戸財界とともに別会社を設立して建設・開業し、経営が安定した段階で神戸電鉄が吸収することとした。1979年(昭和54年)10月29日、神戸電鉄を筆頭株主として北神急行電鉄株式会社が設立されたが、自治体は出資しなかった。谷上・新神戸間の本格的な土木工事は1981年(昭和56年)11月16日に着手された。その中核となったのが、当時日本の民鉄で最長だった全長7,276メートルの「北神トンネル」であり、破砕帯が点在する硬質な六甲花崗岩を貫く難工事となった。また山陽新幹線の真下を貫くため、新幹線新神戸駅を沈下させてはならないという厳しい施工基準が課せられた。1984年(昭和59年)8月9日にトンネルが貫通した。
北神線は、1988年(昭和63年)4月2日、当初の予定より約1年遅れて新神戸 - 谷上間が北神急行電鉄北神線として開業し、開業初日から神戸市営地下鉄西神・山手線との相互直通運転を開始した。工事は困難を極め、当初約533億円だった総工費は開業時には約710億円まで膨らんでいた。路線は日本鉄道建設公団によって建設され、トンネルの建設費は自治体ではなく阪急電鉄と同公団の折半によって賄われた。開業当初から車掌の乗務しないワンマン運転が実施され、新神戸駅で乗務員の交代が行われてきた。
1995年(平成7年)1月17日の阪神・淡路大震災では、北神線に大きな被害はなく、翌18日には運行を再開した。神戸周辺の他の鉄道路線がなお不通だった中で、一時は大阪その他日本各地から神戸市都心部へ直結する唯一の交通機関としての機能を果たした。しかし経営面では苦しんだ。距離の割に運賃がかなり高く、接続する神戸電鉄有馬線と西神・山手線が別事業者であるため、両線に跨って利用するとさらに高額となり、輸送量は伸び悩んでいた。重い建設費の金利負担が会社の経営を徐々に圧迫していった。
この債務負担を軽減するため、2002年(平成14年)に北神急行電鉄は軌道・トンネル・構造物などの鉄道施設を神戸高速鉄道に譲渡し、インフラを保有せずに列車の運行のみを行う第二種鉄道事業者となった。同年12月16日には、谷上方前から3両目(4号車)を毎日終日の女性専用車両に設定し、これは相互直通する西神・山手線の区間も含めて適用され、毎日かつ終日の設定としては日本初であった。それでも、費用のかかった路線を高い運賃で少ない乗客が利用するという根本的な問題は未解決のままだった。
決着となったのは市営化である。2018年(平成30年)12月には、神戸市が北部の開発や人口増加を図るため、北神急行電鉄の事業を譲り受けて北神線を、すでに相互直通している西神・山手線の一部にし、運賃を値下げしたいという意向を明らかにした。阪急が協議に応じ、2019年(平成31年)3月29日には、資産等の譲渡と両線の一体的運行について基本合意が成立した。2020年(令和2年)3月に国土交通大臣が譲渡を認可し、6月1日に路線は北神急行電鉄から神戸市交通局に移管されて「神戸市営地下鉄北神線」となり、長く望まれていた運賃値下げが実現した。かつての保有・運営会社であった北神急行電鉄は、同年8月31日の株主総会で解散が決議され、2021年に清算を終えた。
現在、北神線は神戸市営地下鉄の一部として一体的に運行されている。北神線のみを走る列車はなく、列車は西神中央駅など西神・山手線の各駅との間を直通し、谷上駅では軌間が異なるため直通できない神戸電鉄有馬線と対面乗り換えができるようになっている。昼間はおおむね15分間隔の運転で、この2駅の路線は、北部の住宅地に都心への高速なトンネルルートを与えるという本来の役割を果たしながらも、今も日本で最も運転頻度の少ない地下鉄路線の一つとなっている。
年表
- 197910月29日:谷上 - 新神戸間の路線を建設するため、神戸電鉄を筆頭株主として北神急行電鉄が設立される(自治体は出資せず)。
- 19803月15日:布引(現・新神戸) - 谷上間の地方鉄道敷設免許を取得。
- 198111月16日:北神線の本格的な土木工事が着手される。
- 19848月9日:当時日本の民鉄で最長だった全長7,276メートルの北神トンネルが貫通する。
- 19884月2日:当初予定より約1年遅れ、新神戸 - 谷上間が北神急行電鉄北神線として開業。初日から神戸市営地下鉄西神・山手線と相互直通運転を開始。総工費は約533億円から約710億円に膨らんだ。
- 19951月17日:阪神・淡路大震災で大きな被害はなく、翌18日に運行を再開。一時は神戸都心部へ直結する唯一の交通機関となった。
- 20024月1日:北神急行電鉄が鉄道施設を神戸高速鉄道に譲渡し、第二種鉄道事業者となる(運行は引き続き担当)。
- 200212月16日:谷上方前から3両目(4号車)を女性専用車両に設定。毎日かつ終日の設定は日本初。
- 200610月1日:ICカード「PiTaPa」・「ICOCA」の利用が可能になる。
- 201812月27日:神戸市が北神急行電鉄の事業を譲り受けて市営化し、運賃を値下げする意向を表明。阪急が協議に応じる。
- 20193月29日:神戸市が、阪急と北神線の資産譲渡と市営地下鉄との一体的運行について基本合意したと発表。
- 20203月4日:国土交通大臣が北神線の第二種・第三種鉄道事業の神戸市への譲渡を認可(認可は3月3日付)。
- 20206月1日:北神線が北神急行電鉄から神戸市交通局に移管され、「神戸市営地下鉄北神線」となる。運賃値下げも実施。
- 20208月31日:北神急行電鉄が株主総会の決議により解散。その後、2021年に清算結了。
出典
事実確認日:2026年6月14日