歴史
この路線は、東京北部の郊外で電気供給事業と軌道・バス事業を兼営していた王子電気軌道(王電)が敷設した路線網を端緒とする。同社は1910年4月19日に設立され、1911年8月20日に最初の軌道区間である飛鳥山 - 大塚間を開業した。続いて第二期線が建設され、1913年4月1日には三ノ輪(現在の三ノ輪橋)- 飛鳥山下(現在の梶原)間が開業して軌道は約7.3キロメートルに延び、同年10月31日には飛鳥山下 - 栄町間も開業した。
王子電気軌道はその後の20年あまりで路線網を着実に整えていった。1915年4月17日には王子 - 飛鳥山間が開業し、1925年11月12日には大塚駅前 - 鬼子母神前間および栄町 - 王子間が開業して、路線全体での直通運転が可能となった。早稲田方面へは段階的に延伸され、1928年12月25日に鬼子母神前 - 面影橋間、1930年3月30日に面影橋 - (仮)早稲田間、そして1932年1月17日に早稲田までが開業した。これとは別に、1927年12月15日には北側の支線として神谷橋 - 赤羽間が開業していた。
戦時下の電力統制・交通統制により、王子電気軌道はその歴史を終えた。1942年2月1日に同社は解散し、電灯電力事業は関東配電に合併され、軌道事業は東京市電気局に引き継がれて東京市電の一部となった。1943年7月1日には都制の施行に伴い、路線網は東京都電車(都電)となった。都電となってからは、旧王子電気軌道の路線は27系統(三ノ輪橋 - 赤羽)および32系統(荒川車庫前 - 早稲田)として運行された。
都電は最盛期には東京の中心部に約40の系統を展開していた。1960年代の交通渋滞の深刻化、都営地下鉄整備の費用負担、赤字の公共事業の整理といった事情を背景に、東京都は1967年から都電の各系統を相次いで廃止していった。第1次財政再建計画では、現在の荒川線を構成する系統自体も廃止の対象とされ、27系統は1970年度、32系統は1971年度に廃止する予定であった。
これらの系統が存続したのは、路線の約9割が併用軌道ではなく専用軌道を走っており、自動車交通への支障が少なく、恒常的に渋滞する並行道路を走る路線バスでは容易に代替できなかったためであり、沿線住民の強い存続要望もこれを後押しした。都電路線の大半が廃止された1972年11月12日の時点では、バスによる代替が可能であった27系統の王子駅前 - 赤羽間のみが廃止されるにとどまった。残存区間の恒久存続は1974年に決定し、同年10月1日に27系統と32系統が統合されて三ノ輪橋 - 早稲田間の一体運行となり、案内上の統一路線名として「荒川線」の名称が制定された。
運転士のみが運賃収受や車内放送を行う単行のワンマン運転は1977年10月1日から導入され、翌年4月には全列車に拡大された。線籍上の正式な路線名は長らく三河島線・荒川線・滝野川線・早稲田線の4路線に分かれており、これらが「荒川線」の名称に統一されたのは1995年度版の『鉄道要覧』からのことである。2017年、東京都交通局は利用者増と沿線活性化のため路線に愛称を付けることとし、一般投票にかけられた8つの候補の中から「東京さくらトラム」が同年4月28日に発表され、路線記号SAを用いた駅ナンバリングも同年11月下旬から導入された。荒川線は1970年代の最盛期に比べると利用客は減少しているものの、飛鳥山公園やあらかわ遊園などの名所を縫って走る、古い東京を伝える路線として今も親しまれている。
年表
- 19104月19日:王子電気軌道株式会社が設立される。
- 19118月20日:最初の軌道区間である飛鳥山 - 大塚間を開業。
- 19134月1日:三ノ輪(現・三ノ輪橋)- 飛鳥山下(現・梶原)間が開業し、路線は約7.3kmに延びる。10月31日には飛鳥山下 - 栄町間も開業。
- 19154月17日:王子 - 飛鳥山間が開業。
- 192511月12日:大塚駅前 - 鬼子母神前間および栄町 - 王子間が開業し、全体での直通運転が可能となる。
- 192712月15日:神谷橋 - 赤羽間(後の27系統の一部)が開業。
- 192812月25日:鬼子母神前 - 面影橋間が開業。
- 19303月30日:面影橋 - (仮)早稲田間が開業。
- 19321月17日:早稲田まで開業し、全通する。
- 19422月1日:電力統制・交通統制により王子電気軌道が解散し、軌道事業は東京市電に引き継がれる。
- 19437月1日:都制施行により東京都電車(都電)となる。
- 1967東京都が、1960年代の交通渋滞や地下鉄整備費用などを背景に都電各系統の廃止を開始する。
- 197211月12日:都電路線の大半が廃止される。現在の荒川線のうち、バス代替可能な27系統の王子駅前 - 赤羽間のみが廃止される。
- 197410月1日:恒久存続の決定を受け、27系統と32系統が統合されて三ノ輪橋 - 早稲田間の一体運行となり、統一路線名「荒川線」が制定される。
- 197710月1日:単行のワンマン運転を開始(全列車化は1978年4月1日から)。
- 20174月28日:愛称「東京さくらトラム」が決定・発表される。路線記号SAによる駅ナンバリングは同年11月下旬から導入。
出典
事実確認日:2026年6月14日